特別理論講座その4



ピアノの鍵盤とギターのフレット上にあらわれる音程のすべて

ピアノは、オクターブの間を「12平均律」と呼ばれる方法によってチューニングしている。これは、オクターブの間をすべてひとしく半音になるよう分割するもので、隣り合う2つの音同士の関係はどこをとってもすべて半音(短2度)になっている。
 ここで図1を見てほしい。


図1:ピアノの白鍵と黒鍵の世界


 「半音=短2度」というのは、このピアノの鍵盤図でいえば「C」と「♭D」というふうに隣り合った音同士の関係のことをいう。半音が2つで「全音=長2度」になる。鍵盤でいえば、「CとD」の関係がこの「全音=長2度」である。短2度、長2度という「短=minor」と「長=major」という表現は、つねに半音の違いをあらわしている。短2度と長2度の間には「半音」の違いがあり、短3度と長3度の間には同じように「半音」の違いがある。半音よけいにもっているほうがいつも「長=major」である。
 下の「C」の音のその上の「C」の音との関係を「オクターブ」と呼ぶ。「半音」が12個集まるとちょうど「オクターブ」になる。これがピアノのチューニングだ。ピアノでは本来違う音である「♯C」と「♭D」というふたつの音を同じひとつの黒鍵で出すようになっている。これによって、自由な転調(キーを変えること)が可能になった。
 次に図2で、ギターのチューニングをみてみよう。


図2:ギター(orベース)のフレットと音程


 ギターには6本の弦が張られている。第6弦から第1弦へと、だんだん音が高くなっている。
 弦と弦の音程関係(つまりチューニング)は次のようになっている。
E-A-D-G-B-E
 基本的にはすべて「完全4度音程(perfect 4th interval)」でチューニングされている。「完全4度」という音程を、さきのピアノの鍵盤図でみると、たとえば「EとA」という「完全4度」は、「E-F-G-A」というふうに白鍵の上で4つの鍵盤の幅をもった音の関係というふうになる。「完全4度」の「完全」はとってもかまわない。「4度」だけで「完全4度」の意味を表わす。「長4度」とか「短4度」といった音程は存在しない。つまり「4度」はいつも「完全」なのだ。もひとつ「完全」な音程がある。それが「完全5度音程(perfect 5th interval)」である。ピアノの鍵盤でいえば、「CとG」というふたつの音の関係が「完全5度」だ。「C-D-E-F-G」というふうに、「4度」に比べて、白鍵の鍵盤の数が4つから5つに増えている。「4度」と同様、「完全」をとって「5度」というだけで大丈夫。
 [E-A-D-G=B-E]というギターのチューニングのうち、=で結んだ「GとB」だけは「長3度」になっている。ピアノの鍵盤で見れば、「G-A-B」というふうに、3つの鍵盤の幅を持っていることがわかる。
 このように4度を基本にチューニングされた楽器を、指でどのフレットも押さえないで、そのままボロンと弾けば、この[E-A-D-G=B-E]という6つの音の重なりが響くわけだ。この響きが、ギターの「開放弦」の響きだ。この響き、なかなかそれだけで気持ちいい。
 ギターの6本の弦の関係がわかったので、今度は、それぞれの弦の中ではどのようになっているかを見てみよう。
 左から右へ、0、1、2、3、4、5、・・・・・・というふうに、番号をつけたが、これが第何フレットであるかをあらわしている。フレットの数がひとつ増えると、半音=短2度分だけ音程が増える。これは、6本のうちのどの弦のどのフレットの部分でもすべて同じである。
 ピアノの鍵盤では、白鍵だけを下から上へと弾くと、自動的に「CDEFGABC」というふうに「Cのキー」の「ドレミファソラシド」が弾けるが、ギターではそういうふうになっていない。たとえば第6弦で指を第1フレットから第2フレットへと順にずらしていくと、そこで鳴る音は「EF♭GG♭AA♭B~」という半音の連続である。この半音による音階を「半音階(クロマティック・スケールchromatic scale)」と呼んでいる。それに対して「ドレミファソラシド」=「メイジャー・スケール」のように、半音と全音がまざって配置された音階を「全音階(ダイアトニック・スケールdiatonic scale)」と呼んでいる。
 つまり、ギターは「半音階的な楽器」でピアノは「全音階的な楽器」というふうに考えることができる。
 第1部で「音楽を測るモノサシとしての音階」ということを書いてきたが、ギタリストとピアニストとでは、このモノサシそのもののとらえ方、音程のとらえ方、すなわち音楽についての世界観そのものがまったく違うのである。


楽譜7(下):
ギタリストがフレット上でつかむ音程の感じを楽譜の上にあらわしてみると・・・
図3(右):
ピアニストが鍵盤上でつかむ音程の感じを楽譜の上にあらわしてみると・・・


 楽譜7図3に、ギターのフレット上の距離でとらえる音程と、ピアノの鍵盤上の距離でとらえる音程との違いを比較してみた。
 楽譜7に示したように、ギタリストにとって、音程とは、フレット間の距離として意識され、それは半音がいくつあるか、というかたちでとらえられる(ちなみに音程を示すオタマジャクシのヨコの英語と数字の表記は、それぞれの音程の英語表記とその略記法である。この略記法を、この本では活用しているので、ここでいちおうおさえておいてほしい。略記のポイントは、あえて「メイジャー」を基準にし、それから♭しているものに♭をつけて、差別化しているところにある。このことによって、「マイナー」の存在を視覚的に浮彫りにすることを狙っている)。
 それにたいして、ピアニストは、図3に示したように、白鍵と黒鍵とのデコボコの上で、このような半音階をとらえなければならない。この楽譜のように「C」を基準に考えれば。「短」=「マイナー」な音程を弾くためには、必ず黒鍵を使わなければならない、ということである。そして、なぜかピアノの鍵盤上では、この「マイナーな黒鍵」が奥にひっこめられて、差別されているのである(まさに文字どおり「マイナー」なのだ)。それに対して、ギターのフレットでは、このような長=メイジャー、短=マイナーの差別は存在しない。
 楽譜7図3では、音程を完全5度の広さまでしか紹介してこなかった。これにはわけがあって、それ以上の広さの音程は、すべて今までの音程をオクターブの枠の中で逆立ちさせれば得ることができるのだ。
 オクターブをちょうどまっぷたつに分ける音程が、完全4度と完全5度にはさまれた「増4度」「減5度」である。そして、この「増4度」と「減5度」は、それぞれオクターブの半分=半音6個分の、名前は違うが結局同じ距離をもった音程だ。
 さきに「4度」はいつも「完全」だと書いたが、「不完全」な「4度」というのも実はあったのである。
 このオクターブを2等分する、完全4度でも完全5度でもない「不完全」な音程を、中世のキリスト教会では「悪魔の音程」と呼んで恐れたらしい。それに対して「完全5度」は「神」をあらわしていた。
 「神の音程」である「完全5度」を逆立ちさせると「完全4度」になる。「悪魔の音程」をオクターブの枠の中で逆立ちさせても「悪魔」のままだ。
 楽譜8に、これまでの音程を逆立ちさせると、どんな音程が生まれるか、すべて書き出した。「短」のついた「音程」を逆立ちさせると「長」になり、「長」のついた「音程」を逆立ちさせると「短」になる。ロックンロールの第2法則で、♂♀対照表をつくったが、あそこでは「長=メイジャー」が♂、「短=マイナー」が♀、というふうに位置づけていたが、オクターブの中では、この♂と♀は必ずセットであらわれるのだ。♂と♂、♀と♀、といった組み合わせは存在しない。そして、「完全4度」と「完全5度」だけは互いに逆立ちしても、どちらも「完全」同士である。


楽譜8:オクターブとメイジャー/マイナー/パーフェクトの関係、およびメイジャー/マイナー・コードの関係
オクターブの枠の中での逆立ち


5度の枠の中での逆立ち


 この楽譜8で、「ビートルズのつくり方」で使うすべての音程を紹介した。楽譜の中にこの音程を表記するとき、いちいち短2度とか書くのはスペースがなくて見にくいので、それぞれヨコに、その略記法を示した。さきの楽譜7図3の略記法と対応しているので、見比べてみてほしい。
 楽譜8の最後に示したのは「メイジャー・コード」と「マイナー・コード」の違いだ。すべてのコードは基本的に「メイジャー・コード」と「マイナー・コード」というふたつのどちらかに分類できる、というのがクラシックの音楽理論の基本である。
 2種類のコードの構成の違いを見てほしい。
 メイジャー・コードのほうは、完全5度(=神の音程)の枠の中で、低いほうから「長3度+短3度」で分割している。マイナー・コードのほうは、完全5度音程を、低いほうから「短3度+長3度」で分割している。オクターブのときと同じように、今度は完全5度の枠の中で、逆立ちがおこっている。メイジャー、マイナーを決定しているのは、「C」というコードの「ルート=根音」とその上の3度が「長3度」であるか「短3度」であるか、という違いである。ビートルズのつくり方「ビートルズ・キット」のなかの略記法では、メイジャー・コードは<①③⑤>、マイナー・コード<①♭③⑤>というふうになる。①はルートの音。③(メイジャー3度)はルートと真ん中の音との音程関係。⑤(完全5度)はルートと高い音との音程関係である。
 コード・ネームの書き方は、メイジャー・コードのほうが、何もつかないただの<C>で、マイナー・コードのほうが、小文字のmのついた<Cm>となる。この「m」はもちろんminorの頭文字の「m」だ。また、「C」を「ド」とすれば、つまり「C」のキーでこのふたつのコードがでてきたら、<C>のコードは<ドミソ>、<Cm>のコードは<ド♭ミソ>というふうになる。
 結局、「Cメイジャー・コード」と「Cマイナー・コード」というのは「5度」という神の音程の枠のなかで、お互い「逆立ちした関係」にあるコードなのである。しかし、ほんとうに「神の音程」とよぶべきなのは、「メイジャー=♂/マイナー=♀」をこんなふうに分割してしまう「完全5度音程」ではなく、より広くて強力な音程、すなわち「オクターブ」音程である。さまざまな「音階のようなもの=モード」「メイジャーだかマイナーだかわからないようなモード」までもその枠のなかに共存させてしまう「オクターブ」のほうが「神の音程」という名前によりふさわしいだろう。そしてこのことに、ビートルズは最初から気がついていたのである。
 以上で、「距離」という視点でとらえた「音程」の説明はすべて終了だ。
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